業界M&A事例

【スクウェア・エニックス・ホールディングス】AIでゲーム開発工程を効率化 M&Aの可能性も

目次

ゲームソフト大手のスクウェア・エニックス・ホールディングス<9684>が、AI(人工知能)の活用を本格化させている。

ゲームソフトは競争が激しくヒット率が低下し利益の出にくい状況にあるため、生産性の向上や競争力の強化にAIを用いることにした。ゲーム開発の効率化を目的に、東京大学の松尾・岩澤研究室と共同研究を開始したほか、AIをテーマにした社内ビジネスアイデアコンテストも実施し、AI関連プロジェクトを積極的に推進している。

また2025年3月期~2027年3月期までの3年間で、M&Aなどの戦略投資に最大1000億円の枠を設けており、AI分野を手がける企業の買収に踏み切る可能性もありそうだ。

QA・デバッグ作業の70%を自動化

東大松尾・岩澤研究室とは、生成AIを活用したゲームQA(品質保証)工程の自動化技術を開発する。ゲームのQAは、実際にゲームをプレイして、バグ(不具合)を見つける作業で、ゲームの規模や動作が複雑になるとテスト量が増え、多くの人手がかかる。見つかったバグを修正するデバッグ作業も手作業で行われるため、開発負荷が高さが課題だった。

こうした状況を改善する目的で、同研究室との共同研究を始めたもので、2027年末までにゲーム開発のQA・デバッグ作業のうち70%を自動化することを目指す。

プロジェクトは研究室の研究者と同社グループ内のエンジニアで構成される10人ほどのチームで進められている。同社では「自動化技術の活用により、ゲーム開発におけるQA作業の効率化と競争優位性の確立を目指す」としている。

AIをテーマにしたビジネスアイデアコンテストでは、具体的な内容は明らかにしていないが、すでに複数のアイデアをプロジェクト化し社内で推進中という。

AI関連企業が買収候補に

こうした取り組みと並行して、生産性の向上や新規分野の強化につながるAI関連企業の買収も視野に入れている。

同社は、自社事業の知見を活用し、業容の拡大や安定化につながる案件については、積極的に投資する方針を掲げており、AIも戦略投資分野の一つとなっている。

AI関連の投資に関しては2024年6月に、マンガAI翻訳のMantra(東京都文京区)に出資した事例がある。

Mantraの技術やサービスを用いることで、日本のコンテンツの海外展開が促進されることが見込まれ、同社では「出版事業だけでなくゲーム事業でもMantraと協業し、より多くの海外の読者・ゲーマーに日本のコンテンツを届けるための取り組みを進める」としている。翻訳をはじめ業容の拡大に直結する分野では、AI関連企業が今後の買収候補になる可能性は高い。

また同社では、データマーケティング領域の投資にも前向きで、AIと同様に戦略投資分野に位置づけている。データマーケティングは、ユーザーや顧客から得られるさまざまなデータを活用して、マーケティング活動を最適化・効率化する手法。顧客の行動履歴、購買履歴、ウェブ閲覧履歴などのデータの管理や、ウェブサイト、アプリ、ゲーム内行動の解析、広告配信・運用のためのデータ活用などがある。

同社では具体的な対象は明らかにしていないが、こうした分野でもM&Aの可能性は低くない。

新作ゲームソフトのヒット率が低下

スクウェア・エニックス・ホールディングスは、1975年設立の出版事業の営団社募集サービスセンター(1989年にエニックスに社名を変更)と、1986年設立のゲームソフトのスクウェアが、2003年に合併して誕生したスクウェア・エニックスが前身。2008年に持株会社体制に移行し、社名をスクウェア・エニックス・ホールディングスに変更した。

M&Aの実績は少なく、企業買収は2005年のゲームセンター用ゲームメーカーのタイトーと、2009年の英国ビデオゲーム会社のアイドス(Eidos Ltd.)の2件に留まる。

直近では2022年に、ゲーム開発スタジオの米国のCRYSTAL DYNAMICS, INC.とカナダのEIDOS INTERACTIVE CORP.を譲渡した案件がある。

現在はデジタルエンタテインメント事業(売上高構成比63%)を主力に、アミューズメント事業(同22%)、出版事業(同9%)、ライツ・プロパティ等事業(同6%)の四つで事業を構成する。

スクウェア・エニックス・ホールディングスの セグメント別売上高

デジタルエンタテインメント事業は、ゲームを中心とするコンテンツの企画、開発、販売、運営を行っており、家庭用ゲーム機や、パソコン、スマートフォンなど、多様な利用環境に対応している。

アミューズメント事業は、アミューズメント施設の運営、アミューズメント施設向けの業務用ゲーム機器・関連商製品の企画、開発、販売を行う。

出版事業(同9%)は、コミック雑誌、コミック単行本、ゲーム関連書籍などの出版、許諾などを、ライツ・プロパティ等事業では、コンテンツに関する二次的著作物の企画・制作・販売、ライセンス許諾を手がける。

ファイナルファンタジーやドラゴンクエストなどの人気のゲームを保有しており、これらIP(知的財産)をアニメや音楽、グッズなどに展開しているのが強みだ。

同社では家庭用ゲーム市場では、デジタル化をはじめとした技術の進化によって、ダウンロード販売や課金型モデルが増えており、モバイルゲーム市場でも、スマートフォンの性能向上により、よりリアルで面白いゲームを求める人が増えたと分析。

そのうえで、家庭用ゲーム市場は一部の大型ゲームソフトに人気が集中して利益の出にくいソフトが増える傾向にあるものの、今後も成長が見込めるほか、モバイルゲーム市場でも競争が激化し、新作ゲームソフトのヒット率が低下しているものの、市場規模は今後も拡大が見込めるとしている。

スクウェア・エニックス・ホールディングスの沿革と主なM&A

海外組織の見直しで特別損失を計上

同社は、トランスメディア展開(ゲーム、アニメ、音楽、グッズなど複数メディアを横断してコンテンツを展開すること)の進展や、市場のデジタルシフト、AI の加速度的な進化などに対応するため、組織の改革に取り組んでいる。

国内ではすでにマーケティングとセールスの効率的な連携を目的とした組織再編を実施。海外でも2025年11月に11部署を4部署に集約することで、年間30億円以上の費用を削減する対策を講じた。

海外組織の見直しでは、組織再編費用として2026年3月期に118億円を特別損失として計上。これにより2026年3月期の当期純利益の予想を当初の287億円から169億円(前年度比30.8%減)に引き下げた。

2026年3月期の売上高と営業利益は、それぞれ2800億円(同13.7%減)と、 410億円(同1.0%増)を据え置いた。多くの大型ゲームを投入しても期待以上の利益が出せない状況や、スマートフォン向けゲームでもヒット作品を生み出せない中、安定した企業運営には、インオーガニック成長(M&Aなどによる外部の資源を活用した成長)の重要性が増しているようだ。

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文:M&A Online記者 松本亮一

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